日本IR協会について

第5回 民間の活力を十分に生かすための法制度の構築及び議論が望まれる

べーカー&マッケンジー法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士 本間 正人氏
― 2015年1月掲載 ―

特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(IR推進法)及びこれに基づき制定されるいわゆるIR実施法によって導入されるカジノ施設を含む統合型リゾート(Integrated Resort - IR)は、インバウンドの観光振興及び地方の経済振興を目的とするものであるが、これは民間の活力を最大限に生かすことによってはじめて可能となることは論を待たない。今後予定されるIR推進法及び実施法の議論に関しては、当該視点が十分に意識されることが肝要である。
勿論、IRを導入するにあたっては、区域及び区域においてIRの開発・運営を行う民間事業者の選定方法、公正なギャンブルの確保、マネーロンダリング・金融犯罪の防止、反社会的勢力の排除、犯罪予防・環境及び治安の維持、ギャンブル依存症の防止、並びに青少年の保護といった点について、厳格な法規制が必要なことは当然であり、民間事業者はこれを完全に遵守すべきである。しかしながら、遵守すべき法そのものが、合理的な根拠に基づかない不必要・過度の規制、明確性を欠いておりビジネス上の予測可能性を損なう規制、又は透明性を欠く規制となってしまえば、民間事業者は参入する意欲を持つことが難しくなってしまう。特に国民性・文化といったことの共有が難しい外国の会社の場合、そういった規制のもつネガティブな効果は甚大である。抽象的な不安感に基づく規制に基づく規制、一挙手一投足を細かく管理するために官僚的規制といったものは排除し、民間の活力を生かし、且つ、IRにより生じ得る負のインパクトを効果的に減殺できるための法制度を考えていかなければならない。
上記を前提に、更に一歩進んで、魅力的なIRを作ることができる力をもった民間事業者が参加しやすくなるための法制度・プロセスの策定、そのための議論を期待したい。検討しなければいけないポイントは多岐にわたるが、参入を検討中の民間事業者の視点から、早い段階で考え方が示されることが望ましいいくつか論点を提示したい。「法制度」として整理されるか、より緩やかな考え方・方針として整理されるかについても、今後議論がされていくものと理解している。

■IRを設置する区域としての申請を検討している地方公共団体と民間事業体の接触に関するルール: 地方公共団体が実現性の高い区域指定に関する申請をおこなうためには、参画を検討している民間からのインプットがあることが望ましいと考えられる。しかしながら、これに係るルールが明確にならなければ、後の地方公共団体による民間事業者の選定に係る透明性の確保が難しくなり、過度の接触(自己に有利に働くような歪んだインプットの提供)や萎縮効果(他の事業者と公共との関係を踏まえて、インプットをせずに諦めてしまう。)を生じさせる可能性がある。そこで、地方公共団体と民間事業者の対話のプロセスが明確になることが望ましいと考える。

■選定する民間事業者の構成(JV)に係る考え方: 地方公共団体の打ち出すコンセプト及びこれに基づくIR開発の方法によって異なり得るとは思われるが、どういった単位で民間事業者の選定を行うのか(カジノオペレーターのみなのか、建設・運営・維持管理の業者も含める必要があるのか、更に進んで関連するサービス業者・機器業者等も含める必要があるのか等)、また、資本構成に制限はあるのかといった点に係る考え方を早い段階で示すことが重要である。既に検討を始めている民間事業者はJVの組み方にセンシティブになってきており、「オリンピック前を目指す。」という目標のためには、民間事業者が素早く動き出せるように指針を示すことが肝要であるように思われる。

■ライセンス取得・維持の要件: ライセンス制度がとられることは当然であるが、その要件が明確にならなければ、カジノ事業に参入することのコスト・負担を精査することができない。合理性のある、過度な負担とならないライセンス制度の構築が望まれる。

■納付金に関する明確なルール: いわば「カジノ税」となる納付金に関するルールが示されなければ、経済性に関する精査をすることができない。諸外国の事例を踏まえて、競争的な水準となることが期待される。

■日本人の入場制限の方法: カジノの持つ負の効果を減殺するために、日本人の入場に係る一定の規制を設定することは当然であるが、他方で、このような規制は事業の経済性にかなり大きなインパクトを持ち得ることとなる。不明確又は過度な規制にならないことが望ましい。

■関連するマネーロンダリング規制・金融関連規制の整備: 国際的秩序維持の観点からもカジノについてはマネーロンダリング規制が必須であり、また、チップ交換・精算方法によっては関連する金融関連規制(銀行法、資金決済法、出資法、貸金業法等)上の問題点が生じる可能性がある。提供できるサービスや備えなければならない体制に直結し、コスト・負担にもインパクトがあるため、解釈等に頼らない明確な規定(各種金融関連規制に係る例外規定を含む。)が望ましい。

■IR施設に対するプロジェクトファイナンスと親和性のある法的枠組の構築: 民間事業体及びその株主に係るライセンス制度がとられ、且つ、問題があった場合の取消制度も導入されることが想定されるが、当該枠組は、IRでも活用が期待されるSPCを利用したプロジェクトファイナンスの手法に大きなインパクトがある(具体的には、担保パッケージの設定、ステップ・インの権利の確保・方法等)。これらについては、包括担保契約、公共側と融資金融機関の直接協定協定等を通じて各種問題点に対応することが考えられる。今後、IRプロジェクトに融資を行う金融機関にも配慮した法的枠組の議論が期待される。

<本間 正人氏プロフィール>

2004年 弁護士登録 ベーカー&マッケンジー法律事務所入所
コロンビア大学ロースクール卒業後、2011年にニューヨーク州弁護士登録。ベーカー&マッケンジー法律事務所の日本及びロンドン事務所、邦銀ニューヨーク支店及びロンドン支社において、PPP-PFI、プロジェクトファイナンス、金融関連規制対応、クロスボーダーM&A関連業務等に従事。現在、ベーカー&マッケンジー法律事務所の銀行・金融グループに所属し、外資系クライアント等に対するIR推進法への対応に係るアドバイスを担当している。 〒106-0032 東京都港区六本木1-9-10 アークヒルズ仙石山森タワー 28F
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